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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
どうです!
いま、すばらしい七色の虹が、かかっている。
その虹のはしに、小広い滝見台があって、そこから、草を分ける小みちが、だらだらくだりに滝とは反対の谷底へ、のびています。
昼なお暗いという形容は、ここにきてまことに真。
小みちを下りつくした谷あいの木かげに、先ごろから、木口のいろも白い一軒の造作小屋が建てられて。
どんなものずきな人か、髪の白い、腰の曲がりかけた老人が、この山奥も淋しくないとみえ、たったひとりで住んでいる……作阿弥。
人の背ほどもあろうかと思われる雑草や、灌木におおわれて、この作阿弥の仕事部屋は、滝見台からも人の眼に映らない。
世を離れ、三昧の境地にはいって、一心不乱に制作したいという彼の望みにしたがって、この、もっとも人跡絶えた渓谷を卜し、対馬守の手で急ぎ建てられた、いわば、これが、作阿弥のアトリエなのだ。
たった一人――。
とは言ったが。
それにしては、ふしぎなことがある。その工作部屋から、ときどきさかんに人の話し声がもれてくるので。
だが、朝夕作阿弥が、小屋のそばを流れる谷川の縁にしゃがんで、土釜の米をすすいだり、皿小鉢を洗っているのを、むこう山の木の間から、樵夫が見かけることがあるくらいで、住んでいるのは、確かに作阿弥老人ひとりのはずだが……。