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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
03 日光の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页
「なア、りっぱなものを彫りあげて、ぶじに納めることができれば、大仏師法眼康音、狩野探幽、左甚五郎など、日光結構書に伝わる名人巨匠と肩をならべて、お前も長く権現様のおそばに残ることになるのじゃ。ナア、そう思ったら、しばらくジッとして立っておるぐらい、なんのこともあるまいが……」
今も、この作事小屋から、しきりに作阿弥の話し声が流れ出て、
「ホラ! ここへひとつ、こう、グッと鑿を入れると、ソラどうじゃ、全体が見違えるほど、活きてきたであろうが」
あとは、またコツコツと、木を刻む音だけがしばらくつづく。
深山の静寂は、まるで痛いほど、耳をつきさす。百千の虫、鳥どものなき声が、この静かさの中にこもっているのだ。
小屋の中は、シインとしている。
二
と、思うと……。ふたたび。
「コラコラ、動いちゃいかん! う? 何? もう疲れたというのか、じっと立っておるのは、辛抱ができんか、ははははは、よし、休もうナしばらく」
別人のように若やいだ、艶のある作阿弥の声。
ひとりごと?
それにしても、変だ、さながら話し相手があるような口調である。
もしここに、彫りあげるまで人に見られたくないという絶対境の作阿弥の芸術心に、些少の尊敬しかはらわない人があって、今この小屋をすき間から、ソッとのぞいたとしたら……。