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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

泣きたくなるような気持で、またションボリと家へはいると、ただ一人つけられている若い女中が背戸口から秋草を取ってきて、床の間に生けています。お蓮様母子をなぐさめようという、やさしい心があるのかもしれない。

お蓮さまはそのそばへすわって、

「ねえ、なんとかならないのかしら。お前、ひとっ走り造営奉行所へいって、上のほうのお役人様に……ああ、そうだったねえ。お前は唖だったねえ。ええイじれったいッ!」

娘はニッコリ笑うばかりで、どこ吹く風といったように、活けた秋草をながめては、そこここ葉をはらっている。

焦慮とも、懊悩とも、いいようのない日がつづく。

それでいて食事だけは、三度三度二の膳つき。

たいせつな人柱。

いざ用に立てるまでに、母娘もボッテリふとらせておこうという肚かもしれない。これじゃアまるで、市場へ出すのを楽しみに、豚を飼っているようなもの――。

すると、ここに。

人情というものは、まことに微妙なものです。

仇敵同士でも、ひとつ屋根の下に起き臥ししていれば、いつしかそこに、情がわく。ことに不具の者ほど、そういった人なつっこい気持は、強いと言います。