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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

この火事が、はるか霧降りの滝の下の作爺さんの眼に映って、折りからそこへたずねて行ったチョビ安、泰軒居士の二人は、作爺さんとともに、悍馬足曳に三人鈴なりの体、雑沓の護摩堂付近へ馬を乗り入れたとき、ちょうど群集を斬りはらいながらたち現われた左膳と、バッタリ――。

「おお、お父上!」

とチョビ安は涙声、

「お美夜ちゃんも、無事で!」

「アラ、チョビ安兄ちゃん! お爺ちゃんも来てくだすったの」

「ウム、あぶないところを助かったか、これ、お蓮、お美夜、ここでは話もできんから……」

と、片手に足曳のくつわを取った作爺さんの横顔に、燃えさかる作事部屋の火が、赤かった。

四

騒動にまぎれて、日光の山をくだりかけた一同が、振りかえって見ると、作事部屋の火は大事にいたらずしてすぐ消し止めたらしく、明けはなれようとする夜空に、火映えはどこにも見られなかった。

それから数刻ののちには。

カラッとした秋の朝陽の降る日光街道に、今市の方向をさして急ぎつつある、異様な姿の一行が見られた。

「御好意返上」とだけ、筆太に書いた紙を馬のくつわに結びつけて、そのまま足曳を手ばなした作爺さんは、放心状態のお美夜ちゃんとお蓮様の手を引いて……それをとり巻く左膳、源三郎、萩乃、お藤、チョビ安、泰軒たち。