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たんげさぜん

丹下左膳

林 不忘

03 日光の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 196,229 字 · 389 页

青空文庫

「これじゃアしょうがねえ。下帯をときな」

江戸っ子がそろっているから、いくら貧乏人でも、腹巻きや下帯は、切りたての晒し木綿のりゅうとしたのを身につけている。

それをつなぎ合わせましたから、ここに長い一本の綱ができた。

即製の、いのち綱。

「さぐりを入れるんだ。先に、何か引っかけるものをつけなくっちゃアならねえ」

もう、足を洗うぬかるみの中に立って、一同は死にもの狂いの働きだ。

誰かが、焼け跡から桶のたがを見つけてきた。それを、そのつないだ帯のさきに結びつけたが、これだけでは、水のなかへ沈んでいかない。

「重りをつけろ」

というので、そのまたたがへ、てごろの石をゆわいつけた。

このふしぎな命綱を、静かに穴の水中へおろしてやるのだ。あせる心をおさえつつ。

へんな夜釣りがはじまった。

「手ごたえはねえか」

地引き網のように、五、六人で綱のはしを持ってたぐりおろしてゆくと、しばらくして、

「ウム、重くなったぞ! 何か引っかかった」

ソレ、あげろ、引きあげろ……と言うんで、勢いこんで、ひっぱりあげてみると、何と! 大きな岩が桶のたがにひっかかっている。

水は、いたずらにムクムクとわき出るだけ、……丹下左膳も、柳生源三郎も、影も形もあらばこそ――。