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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
吹雪の小やみに、時々、青い月かと思うような空明りが映す。犬のように、宿場端れをのそのそと雪沓で踏んで来ると、
――がさっ。
と、町屋の厩で物音が聞え、馬のうしろで二本の長柄刀の刃が光った。
「……だ、誰だっ?」
すくみ腰は双方でしていた。
やがて、見さだめてから、
「源内じゃあないか」
馬糧の中から出て来たのは、これも宿場の牢人どもで、きょうの布令に、ふだんの懶惰を一蹴して、寒さも睡さも忘れている仲間だった。
「どうだ」
「なにが」
「いい首でも拾わなかったか」
「まだ、まだ」
「はて。……雁ばかり飛んでいやがる」
喞ち合っていた時だった。
その雁の群が、湖畔のほうへ斜めに落ちて行くのをぼんやり眺めていると、三名のすぐうしろを、一騎の武者が、極めて静かに通って行った。
駅路は雪が掻いてある。両側とも廂へまで届きそうな雪の山だった。その雪越しに、馬上の半身だけがちらと見えたのである。
「……やっ?」
「叱」
長柄刀と竹槍は、雪の山へへばりつきながら、後を尾けた。――だが騎馬の武者は余りにも平然としていた。落武者らしい恟々した気くばりも見えないのだ。
「何だろう、あいつ?」