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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「…………」
「奥州の土産ばなしに、天狗にお目にかかりてえもんだ――と、こないだうちから念願にかけていたら、ほんとに巡り会っちまった。しかも天狗が二人して密々ばなしだ。やがて、ひとりの天狗が鞍馬へ帰り、ひとりの天狗は今、吉次の眼の前で、しまッたと云わんばかりな顔をしていらっしゃる。……ね、光厳さん、お前さんも、天狗の仲間の一人でしょ」
指さされた光厳の顔は、青い憤怒の仮面みたいにさっと変った。――おのれッと、その口が焔を吐いたように叫ぶと、法衣の下から抜いた短い刃が、濡れ縁に腰かけている吉次の胸もとへ、いきなり突いて行った。
吉次は、地を蹴って観音堂の縁へとび上がったが、すぐ飛び下りて、光厳のうしろから羽交い締めに抱きすくめ、なお、死力を尽くしてもがき抜く光厳の耳元へ、蚊が啼くような小さい声で云った。
「同士討は止そうじゃありませんか。お味方になりましょう。……てまえも、天狗の仲間へ入れておくんなさい」
六
こうなっては力ずくで吉次に敵うはずはない。光厳は病身である。吉次は逞しい。
「刃ものいじりなんざ、およしなさい。それこそ、僧門の人のがらにもない事だ」