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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「あいつ、一度こッぴどく、泣かしてくれねば」

と、憎む法師はあっても、

「あわれなる稚子」

などと可憐がる者はない。

平気なのだ。山には住んでも、僧侶の中には住んでいないと、行動で云っているような牛若の日常であった。

今日もである。

朝から遮那王のすがたが見えない。遮那王とは、近年、師の東光坊蓮忍が与えた名である。

「よし。こんな時だ」

三、四名の法師が、探しに出て行った。つかまえて懲らしてやる気であろう。十王堂の山門で、待っていた。

麓へ下りたものと見てそこにいたが、牛若は、裏山の谷から上って来た。逸はやく一人が見つけて、

「遮那ッ――」

と、呼びとめた。

かぞえ年十四だが、十一、二歳にしかみえない。相変らず裸足で泥まみれだ。鼻を垂らさなくなったのもつい近年である。

「なに……?」

戻って来る何気ない顔へ、

「何っていう言葉があるかっ。稚子もたくさんいるが、貴さまほど長上に対して、小生意気なやつはないぞ」

ひとりが呶鳴りつけた。

「…………」

牛若は、爪を噛んだ。

鼻の穴まで黒くしているが、その鼻すじは、ちんまりと小隆く、どこか母の常磐を思わせるところもあった。