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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「行ってみようか」

と、他人事でないように、連れ立って、鐘楼の上を覗きに来た。

牛若は、柱に倚りかかって赤い夕雲をぼんやり見ていた。

「遮那。縛られたの」

「どうしたの」

「今夜もここにいるの」

「なぜ謝らないの」

だんだんに側へ寄って、彼の友達は、慰め顔に云ったが、牛若は、

「あっちへ行きなよ。――あっちへ行けよ」

自分のすがたを見られるのが嫌らしく、頭を振って、にわかに、強い顔をして見せた。

何処か、遠くで、

「そこへ寄るなッ。遮那へ近寄る者は、共に縛るぞっ。まだ柱が三本空いておるぞ」

法師の呶鳴る声がした。稚子たちは、わらわら逃げ散った。

彼のまわりに人気もなくなると共に陽は落ちて、とっぷり暗くなりだした。

この鞍馬からおよそ三里という京都の灯が、ポチと三つ四つ見えた。

遠く、かすかに、瞬いて。

「ああ……。あの灯のついてる所に」

牛若は、ため息をついた。

「会いたい」

と、思い出した。矢も楯もたまらなくなってくる。

母の常磐に――である。

釣鐘も釣鐘堂も引きずッて、そこへと歩いて行きたいように気が逸る、体じゅうの血が暴れまわる。

が――会えない宿命にあることを彼はよく知っていた。