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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

徒に平家の全盛を誹りちらして身をひがむ者もない。至って気楽な世間ばなしなどである。友だち同士の諧謔を云ったり笑い交わしたりしていた。

ここの谷間の会は、月に何度かこうして集まった。その度ごとに耳新しい事件だの平家方の情報などがそう頻々とあるわけもない。お互いの無事を見合えばまずよいのだった。それと、鞍馬寺にある亡主義朝の遺子牛若を、よそながら護り、よそながら教育し、やがての事は、その牛若の成人の日として待っているのである。

(――この和子様をこそ傅り育てて)

と、牛若という一粒の胚子を培い合って、その伸びるのを見ているのが、一同のたのしみでもあり、盟約の中心にもなっていた。

月に幾度か、ここに幼い君を迎えて、義朝の旧臣たちは、各※(二の字点、1-2-22)、その長ずる所をもって牛若へ教導の任にあたった。

古来からの史を講じて、牛若に、武将としての英邁を養おうとするもあり、軍学を講義したりまた、源家の起りから義朝の代に至るまでを語って、牛若に、早くから「自分というものは何か」を教え込もうともした。時にはまた、面々木太刀をおっ取って、わざと幼い君一人をつつみ、それに負けじ魂と肉体的鍛錬をも、無理なほど打込んだ。