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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「似ているとは、誰にですか」

「頭殿に――お身の父義朝どのにな」

「あっ……。そ、そうですか」

牛若は、拳で眼をこすった。藺筵にぽろぽろ涙が落ちた。

「無念か」

「いいえ。もう、もうこの頃では……それよりか、父に似た子と云われたのが、何だか、欣しくて」

「これより何処へ身を寄せられるお考えじゃな」

「奥州の藤原秀衡どのを頼って下る途中でござります」

「そこまで行き着けば、後日の策も立とう。しかし途中は心に心をつけて」

「はい。……ではこの賜物、戴いて参ります」

「召してゆくがよい。そう人目立つほどの衣裳ではない」

旅の小冠者にはふさわしい派手派手しくない狩衣だった。牛若は押しいただいて着更え、太刀をも腰につけた。

「む。よい若者振り。亡き頭殿にも見せたいのう。――が、加冠はしたが、名は何と称ばるるか」

「そう。元服すれば、名も改めるのが慣いでした。――源氏の遠い先祖は、六孫王経基と聞いております。――それから義家、為義、義朝と、いう風に、よく源氏の代々のお方には、義の字が用いられていますから、わたくしは、義――経。――義経と名乗ろうと思います」

「して呼び名は」

「義朝の八男ですから、八郎と称ぶところですが、叔父に鎮西八郎為朝があります。