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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「公達。わしが送ってあげましょう。あなたは誰か、源氏のお子だろう」
鵜匠は、突然云い出して、頼朝の帯びている刀を、自分の携えている山芋の苞へ入れ代えてくれた。
「こうして、わしが持っていて上げる。あなたは女のようじゃ。人が問うたら、女じゃと答えなされ。女のように姿態なされ。よいかの」
悪人か善人か、頼朝には判断もつかなかった。彼はただ漠として、身の運命を、鵜匠の男に託していた。
けれど、そう恐れはしなかった。尼寺に落ちついて、我に回った頃から、戦争の記憶は彼方になった。大きな浪をのりこえて、浪の底からぽかりと顔を出した世界に、彼のたましいは面白さをすら感じていた。
(青墓へ行けば、父義朝がいる。兄たちがいる。郎党どももいる)
道が北側から山を越えて南面へ下がると、少年の心も南向きの明るさになった。時々思い出されるきのうまでの都での公達生活も、父の豪壮な館も、何の未練にも考えられない。こうなるのが自然で、当り前で、飢えも苦しさも、彼の心を感傷へ引きこむには足りなかった。
幾日か経て、青墓へ着いた。宿の長者大炊の家へ行くのだと初めて明かすと、鵜匠は非常に驚いて、