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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

そういう平家人のあいだでは、こんな事すら云われていた。

(人は都。馬も、田舎に名馬なし)

いかにも、思い上がった言葉である。果たして、田舎に人はないだろうか。田舎に名馬はないだろうか。

頼朝が、自ら、龍胆黒と名づけて、ここの厩に飼い、厩舎人の鬼藤次という小者を付けて、鍾愛措かない黒鹿毛は、都にも稀な逸物だといわれているものであった。

しかもその黒は、この西伊豆の豪族でありまた、配所の経済や頼朝の身に就いてなど、六波羅からその世話や監視の役をも命じられている北条時政が、ある折、特に自分の一頭のうちから選んで送ってくれた駒である。

この配所から程近い北条家の館へ招かれた一日、

(馬がないので何かにつけ不自由いたしている)

と、頼朝がもらしたのを、その折、初めて会った時政のむすめの政子が、

(この頃、お手に入れた黒鹿毛は、悍気がつよいと仰っしゃって、お乗りにもならずに厩に繋いであるようですから、あれを差上げてはどうでしょう)

と、暗に父の時政へせがんで、その帰りに、鞍まで添えてくれたものであった。

政子の印象もよかったし、駒を馴らしてみると、案外な逸足なので、頼朝は厩の物音を聞くと夜半でも、紙燭をかかげて、