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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

――文字どおり艱苦を共にして来た主従である。それだけに、今となっては、切っても切れない君と家人のあいだがらにもなっていた。

――思い出すと、長い間には、こんな事もあったりした。

兄の定綱は、父秀義にも劣らない、矢を矧ぐ事の上手であったが、ある夜兄弟して、夜業に矢をはいでいるのを、頼朝が見て、

(おまえ達の作る矢を、一体いつになったら、この手でいっぱいに引く日が来るだろうな)

と、呟いたので、兄弟は急に胸がせまって、何も答え得ずに泣いてしまった。主従、燈火の消え入るばかり、手を取りあって泣いてしまった。

「……何度、この足の指の生爪が剥げたら、その日が来るか」

盛綱は今朝も――そんな事を考えながら、主人の駒を曳いて帰って来た。

すると、配所の門前に、何事が起ったのか、大勢の雑人たちが群れて、わいわい騒いでいた。

三

「や。流人の主従が」

「あれへ来た」

「戻って来おった」

雑人たちは、露骨な敵意を示しながら、指さしたり、喚いたりした。そして頼朝のまわりへ、わっと寄って来そうな勢いを示した。

「何事ぞ」

頼朝は、盛綱を顧みた。盛綱は、馬前に諸手をひろげながら、

「何事やら分りません。