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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

そして、伯楽たちの云いならべる文句を、黙って聞き取った。――聞いてみれば、敢えて、盛綱の罪というのでもないので、何で彼が面目なげに打悄れているのか、その愚直さがおかしくなった。

「騒ぐな、馬の代を払うてつかわせばよかろう」

「払うてさえくれれば文句はない」

「それに待っておれ」

「おお、待っていよう」

大勢も、配所の鹿垣の根や、そこらの草むらに腰を下ろして、まだ疑わしげに、がやがや云っていた。

彼等が疑うのもあながち無理ではなかった。頼朝の貧しい生活ぶりは、平常ここの柵から覗いて見ただけでも知れていた。流人の給与はおよそ穀物何十石、油何斗、布何反と決った額が渡される他、何の収納もあるわけはないからだった。

「はて。困った事が」

盛綱を外に残して、頼朝は内へ入ったが、馬の代に相当するような財物は何もなかった。

池の禅尼が在世中、年に一度ずつ都から送ってくれた衣裳やら経巻やら高価な数珠などはある。折々に、乳母の比企の局から心づけては届けてくれた身まわりの調度や雑器などはある。――が、それらは皆、人手に渡すに忍びない恩人たちの真心の物でもあるし、また、そのすべてを渡しても、馬の価には足りそうもなかった。