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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
赤い焔が下からその顔へ映す。この上人の素性に就いてはかねて種々聞き及んでいる事が多い。都でもよく話題の人となり、伊豆へ流されて来てからも、里の人々が何かにつけて噂するからである。
すでにこの人の発心からして世の常の出家とはちがっている。俗姓を遠藤、名を盛遠といい、北面の士から、院の武者所となったが、十八の年、袈裟という人妻を斬って、慚愧の果て、髪を削って僧門に入ったのがその動機だったという。
その後の修行ぶりもまた、人なみ超えていて、那智山の荒行の如きも、諸国の名山大川に亙って、幾度となく体験して来たらしい。人は呼んで、高尾の荒法師といっているが、当人はこの伊豆へ来てから、自分で自分を、
「善相人」
と称している。
善相だろうか。――自分でそういうところなど、人の好さはわかる。けれど、炉の中から映す赤い火影に見える顔は、むしろ怖ろしい。
ここへ流罪となって来た原因なども、凄まじい事である。神護寺の廃毀を修復して、仏法の興隆を喚起し、あわせて父母の冥福をも祈る、という勧進をして、都の市民へ呼びかけていたが、一日、法住寺の法殿に貴紳が多く集まると聞いて、そこへ行って勧進の喜捨を求めたが、誰も相手にしてくれる者がない。