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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
また、よけい常軌を逸した言動になったりするふうの見える文覚であった。
「――いや、日常の行いなどは、いずれでもいいが、佐殿も、この片田舎に、十七年となっては、眼界までが、伊豆半国にとどまり世を大処から広く見る眼を、お忘れありはしまいかな。憂えられる。嘆かれる。――まずよくよく通じておかねばならぬのは都の事情、ひいて諸国の人心だが、それらの事は誰より聞き、いかなる心懸けで備えておらるるか」
「種々と、有難うございます。立帰りましたれば、よく申し伝えまする。……日も暮れましたゆえ、ではこれにてお暇を」
定綱は、程よく、そう云って立ちかけたが、盛綱は兄に促されても、すぐ起とうとはしなかった。
初めからの眼をそのまま、文覚の顔ばかり不遠慮にながめていた。そして彼の多弁にあらわれる皮膚の上の熱情を、むしろ冷やかに見て幾分かの苦笑を唇の端に持っていた。
五
何か議論でも仕かけたそうな弟の眼ざしである。定綱はなおさらに長座を惧れたらしく、文覚へはまたの日の訪問を約して、無理に盛綱を促してそこを出た。
「そこの柴折を押すと、庫裡の横へ出る。山門を通って降られよ」
文覚が後ろから教えていた。