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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「そこがいいのだ。僧らしくしている今の僧に、よい上人があるかしら」
「ある」
盛綱は、ことばを切って、
「都の黒谷には、法然上人などがいます。近頃、法然房の念仏の声は、しんしんと田舎にまで聞えてきた」
「念仏、易行道、他力本願、そんな説法にそちは感心しておるのか。そちらしくもない」
「いや、わし達の行く道とは、まるで西と東ほどちがうが、広い衆生にとって、世の一方に、ああいう人が出てくれるのは、何か、他人事ながら有難い。――文覚のごときは、なくもがなだ。われわれ武士でさえ、好んで修羅を求めているのじゃない。血なまぐさい世は、避けられるだけ避けたい。そこを超えなければ、次の世に出られない時だけ乗り超えるのが武士の修羅道だ。それを、あの僧の如きは、持って生れた痼疾のように、時を選ばず、所をきらわず、猛々しいことのみ吠えておる。――覇気がありすぎて好きになれぬ」
「――が、きょうの言葉は、源氏びいきの余りに、ああ気を吐かれたものだろう」
「わし達、武人にとっては、あんな贔屓は、かえって有難迷惑、また、足手纏いというものだ。殿をお会わせするなどという事は、盛綱は、止めたがよいと存ずる。