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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
彼にも、老後の計はある。そろそろそれに就いても、考えていた。その一端が、長女の政子の縁談となって、思いがけなく、こんどの旅の途中で、下話しも纏まっていた。
彼は、先頃まで京都に在って、大番を勤めていた。その任期も終ったので、今は久しぶりに国許へ帰って来たところだった。息子たちは、その父を出迎えるために、早朝から三島まで赴き、健やかに帰って来た父の姿を囲んで、家人や荷駄の行列に交じって、いそいそ引っ返して来たのである。
「政子は、変りないか」
他のむすめ達もいるのに、時政の口から、特にその名だけが出たのは、旅先で纏まった縁組のはなしが、案じるともなく、それ以来、常に胸にあるからだった。
「はい、元気です」
宗時がいうと、そのうしろの黒駒の上から次男の義時が、
「元気すぎますよ。父上がいないので、毎日、奥の局の賑やかな事といったらありません。それでなくても、陽気なほうですからね」
と、つけ加えた。
――そうか、そうか。時政はそれで安心なのである。頷きながら笑っている。幾歳になっても、子どもは皆、子どもに見えるのだった。
けれど、政子にだけは、その観方が少しこんどの下向の途中から変っていた。