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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

時政は、妻の立場に、同情もしていたし、彼女がいるのは、うるさく感じたので、

「お前はいないがよい。しばらくあちらへ退がっておれ」

と、退けた。

総領と二人きりになった。時政はよけい厳格な顔を示して宗時に問い糺した。

「実はな……」

「は」

「今も牧と相談していたところだが、山木判官兼隆から、このたびの下向中、政子を妻にと望まれてな――約束を交わしたわけだが」

「そんなおはなしですな」

「聞いたか」

「義母上からちょっと」

「それ、その通り、十分に弁えおりながら、よくも聞かぬなどと、曖昧な答えのみしておる」

「ご無理はありません。義母上にも、政子へは、人知れぬお気遣いがございますから」

「そちなら、何なりと、答えられよう。――どうだな、わしの取極めた縁組は」

「ちと、早まりましたな」

「早まったとは」

「妹は、嫌だと申すにちがいありません。――父上のお眼には、どう見えるか知れませんが、そういう点は、政子はふつうの女子と変っているほうです。はっきり云います。私達へは」

「ふウむ」

「山木の目代兼隆などは、妹の気に添わぬ男と極まっておりましょう。酒くせの悪いのは通り者です。中央へは受けがよいそうですが、目代を鼻にかけて、偉ぶる構え方は、われわれでも、鼻もちがなりません。