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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

けれど、政子は、おうけ致しますまい」

「どうして?」

「政子には、政子が秘かに想うている人がありますゆえ――」

宗時は、自分の一言に、父の顔いろがさっと変ったのを見たが、妹の身になって遣るつもりで、云って退けた。

「――それは、今でこそ、佗しく暮しておられますが、さすがに私たちが見ても、どこか違っている源家の嫡流の佐殿です。――あの頼朝殿へ、妹は、嫁ぎたがっております」

「…………」

ややあってから、呻くように、時政は息子の宗時へ、

「……ほんとか?」

と、乾からびた声を密めた。

宗時が、臆面なく、近ごろ頼朝と妹のあいだに、眼につくほど恋文のやり取りや、忍んで会う夜もあるらしいなどと語ると、時政の面色は、何とも名状しようのない昏惑と憤りに、つつまれた。

宗時は、父の怒りが、そのまま政子や義母にかかるのを惧れて、後から機嫌をとった。

「――山木殿のほうは、何とか、この宗時から、体よく断りましょう。そのほうはご安心下さい。そして、どうか政子の望みをいれて、佐殿へ彼女をお遣わしくださるように兄の私からも、この通りおねがいいたしまする」

両手をつかえて、宗時が、妹に代って云うと、とたんに、時政は、ぬっくと立って、