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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
少し端へ寄って、街道の樹の根方に立ってながめていた。
「はて?」
宗清は小首を傾げた。
頼朝も、彼の方を見ていた。
「藤三。藤三」
宗清が馬上から呼ぶと、供の中から丹波藤三国弘という小侍が、
「はっ。ご用ですか」
と、側へ駈け寄った。
宗清は、鞭を指して、
「あれに佇んでおる少年は、どこかで見たような気がする。引っ捕えてみい。異相の童形、不審である」
と、云った。
「はっ」
と、藤三は、隼の蒐るような眼をして見廻したが、宗清が指した場所には、もう何も見えなかった。
宗清は、鞍の上なので、すぐ行方を見つけ、
「あっ、並木の堤を跳びこえて、彼方へ逃げおる! 追えッ」
にわかに、烈しく命じた。
藤三を初め、侍たちがわっと並木堤を越えて行った。菜畑やら麦の耕地やら土民の小屋を繞った藪などがその向うにあった。しばらくすると、物々しい声に曳かれて、頼朝は引っ縛られて来た。溝へ落ちたり畑土へ転んだりしたとみえて、酷い姿に変り果てていた。
宗清は、手荒にすな、と制しながら、大地へ抛り出された頼朝の上へ馬首を臨ませて、
「小冠者。そちはわしを見て逃げたな。わしを知っているか」