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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「あれは義朝が殺したというよりも、清盛その他の平家が殺させたのだ。朝議ですでに斬罪と決められた人だから、たとえ義朝が庇っても助かりはせぬ。強いて弓矢にかけてもとなれば、朝議へ弓引く事になる。涙をのんでむしろ子の手で処置するしかなかったのだ」
「いや、何といおうが、最初に上皇へ献策し奉って、合戦の口火を切ったのは、義朝ではないか。敗れて、上皇には讃岐へ流され、父為義も、朝議で死罪を宣告されるような失敗をしながら、何で今日まで――」
「待ち給え」
論議の相手は手をあげて、
「君の云うのは、人道論だ。もっと大処から視てやらねば」
「何をいう、人倫の道を外して、人間のどこに誇るものがある」
「そういえば、義朝は非人道の人間に聞えるが、生涯に瑕瑾もないという事は、今みたいな治乱興亡の劇しい中にある武将には、求めても求められない無理なはなしだ。然らば……大きな声では云えないが、六波羅殿はどうだ」
「君はまた、平家方を誹すのか」
「感情でいうわけではない」
「そう聞える」
周囲は、そこへ笑いを交ぜて、
「もう止せ」
と云ったが、一方の雄弁家はなかなか口を噤まないで、
「いったい義朝という人は一箇の武弁に過ぎないのさ。