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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

北条家に、事情を書かせれば、当然、いいように歪曲して書き出すにちがいない、もうそれは六波羅に提出されているかもしれないのだ。

地方事情にうとい中央の役人は、公平を期するつもりか何かで、山木方の訴えと、北条家の中し分とを、書類のうえで見較べながら、日を過しているらしく察しられるのだった。

「何たることか」

と、山木兼隆は、歯がみをして毎日を送っていた。それが募ると、怏々として楽しまない人間になった。復讐の意志さえなくなって、人に面を見られるのも厭うようなふうに変って来た。

「今までは、庶民の訴訟や争いも、他人事として、よい加減に扱って来たが、わが身の上に降りかかって、初めて吏道の悪弊を知った。これも天罰だろう」

そう反省したりして来ると、彼はもう目代として、権力ばかりで地方民へ臨む六波羅の一吏員という仕事さえも、熱心には勤められなくなってしまった。

四

世間に何が起ろうと、配所はいつも幽寂な配所であった。知らぬ顔にしんとしていた。

その配所に、変った事が一つ起った。

雲雀が卵を孵した。

可愛らしい雛鳥が育ちはじめていた。

頼朝は、小禽など愛さない。配所は閑日の中にあっても、彼の胸に閑日はなかった。