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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
この尼は、北条家へも前から出入りしていたし、わけて政子には、幼い時から和歌を教えたり、法華経の読解を授けたりしていた縁故もあって、親しい師弟といったような情愛もあった。
「いいえ」
政子は、顔を振った。
寂しかろと問われた時、政子は「ええ」と答えたことはなかった。気丈なので人に涙を見せないのであろうと、尼はなおさら可憐しがったが、政子は自分を偽ってはいないのである。
正直、彼女は、婚礼の夜、山木家を逃げて来てから、一度でもさびしいなどと無聊な心に囚われたことはない。夜半の海鳴りと共に血の燥ぎの熄まない折はあっても、悲しいとか淋しいとか、今の身を観じたことは一度もなかった。
処女らしい感傷などは、彼女に取って愚かに思われた。彼女の青春は、もっと実際なものに燃えていた。等しく若い夢はあっても、単なる夢に過ぎないことに彼女の血は波も打たないのである。
夢といえば。
いつか妹が、吉い夢を見たというので、政子が戯れに、その夢を買ったことがある。けれど、それは行末の運命を、儚い夢占などに恃んで買ったわけでなく、どこまでも、妹達を遊ばす戯れにした事だった。
今。