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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
政子は読み終るとすぐ、細かに裂いて、掌のなかで小さい鞠としてしまった。そして、萱のまえへそれをぽんと抛ると、萱はすぐそれを拾ってどこかへ隠してしまった。
「姫さま……」
彼女は起って、何か抱えて来た土産らしい物を、政子の側に置きながら、
「あまり屋の内にばかり籠っていては、お体にようございませぬ。裏山からわしの牧場の近くまで、お徒歩いなさいませ。お気がはれまする。萱がご案内いたしますで」
とすすめた。
言葉は唯、形式に云っているだけで、彼女の眼は、政子の眼へ、べつな意味を何やら知らせていた。
「…………」
政子は黙ってうなずいた。
その頬に、紅がさしたのを見ると、それだけで、意味を受け取ったものとみえる。
奥の法音比丘尼にも、他の者にも、眼にふれないように、政子はそっと尼院の裏垣から抜け出して行った。
萱は先に立って、
「――こちらへ」
と手招きしては、かなり急な石の多い山の小道を、登って行った。
尼院の屋根はすぐ眼の下になった。走り湯権現の堂閣も下に見えた。岬の断崖の下に搏つ荒磯の白い浪も下に見えた。
「登れますか、姫さま」
「ええ。これくらいな道」
牧場の妻は当然山馴れてもいる。