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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
ご姓名を承ろう」
「怪しい者ではない。ともあれ佐殿にお目にかかった上で」
「馴々しげに云わるるが、近国の衆とも見えず、まして山伏すがたなどして、これへ来らるる以上、われら家人として、一応疑いを抱くのは当り前でござる。何とお強いあろうとも、生国姓名を明かさねば、お取次は相成らん」
「お汝は誰か」
「佐々木源三が子、三郎盛綱でござる」
「そうか。源三秀義が子か。かねて聞き及んではいたが、佐殿の身内には、なかなかよい若者がおるとは嘘ではなかった。――然らば、申してもさしつかえはない。儂は、新宮十郎行家といい、佐殿には、叔父にあたる者だ。都から訪ねて来たと通じてくれい」
盛綱は驚いた。
率爾を謝して、あわてて奥へはいって行った。
間もなく、黒光りのしている廊の板敷や柱に、灯の影がゆらいだ。そして端麗なる貴公子といった風采の頼朝が、自身でずかずかと出て来た。
そこに立って、しばらくは、夕闇の中の人影をすかしていたが、
「陸奥の十郎殿か」
と、訊ねた。
山伏は、寄って来て、これもじいっと、頼朝を見上げていたが、
「……佐殿か」
と、云って、
「そうだ。新宮十郎行家とは、近ごろ改めた名、以前の陸奥十郎義盛でなくてはわからぬ筈だった。