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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「油断のならない舅だ」
と、頼朝は、彼の遠謀に心では将来を惧れたが、この舅を帷幕に持って、大事へ臨むとすれば、甚だ心強くもあった。
「北条どのがそうご承諾なれば、幸い、自分が参っているうちに、二人の目出度い姿を見て都へもどりたいが」
と、行家が重ねていうと、
「それはよい。ぜひ近日にも」
と、宗時も同意した。
にわかに話は纏まった。いずれ山木家へ知れるにしても、大びらでない方がよい。彼の意気地をこっちから煽動してはまずい。――それに表向きまだ勘当の息女、配所の流人、どこまでも質素がよい。こっそりと挙げるがよい。
時政の忠告どおりな挙式が、それから十日ほど後に、配所の一室で、華燭というよりは、しめやかに挙げられた。
伊豆山の尼院から密かに移って来た政子も至って粗服であった。花聟の頼朝も何の色彩もない姿である。――が、むしろ精彩のないところに清麗があった。配所の寒燈がかえって神々しかった。
時政も密かに列していた。政子の兄妹たちも見えていた。粒々辛苦、長らく仕えて来た配所の家人たちは、ふたりの姿を見て欣し涙を抑えきれなかった。その夜はまた廂に霧の降る音が忍びやかに洩れ、なおさら、去年の時雨の夜が思い出された。