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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

と、一同へ報告した。

「何でもないとは?」

意地悪く一人が問うと、

「はい、産寧坂の下の陶器作りの家の老婆が、夜泣き癖のある孫を負うて、子安観音へ夜詣りに来ていたのでございました」

と、生真面目に答えた。

「わははは」

「あははは」

多分そんな事かも知れないという考えもあったので、よけいな心配や臆測を描いていた各が、自分を嗤い合って、手をたたいた。

それを機に、

「眠ろう」

「どれ、寝るか」

ぞろぞろ立って大きな伽藍の睡窟へ思い思いに掻消えると、後は三、四人の堂衆だけが残って、喰い散らした麦煎餅の欠けらを掃いたり、短檠を片づけたりしていた。

終りに、蔀を下ろして、この清水寺の一つの灯も消え果てると、もう花頂山から東山一帯には、風の音を聞くだけだった。

遥かな夜霞の底に、加茂川の水だけが、薄氷でも張っているように白かった。戦は熄んだとはいえ、まだ洛内は物騒なのであろう。六条のあたりには大きな焼け野原が出来、六波羅の辺にも、いつも見える常明燈の光も見えなかった。

「常磐さま。お開け下さい、……お案じなされますな。最前来た光厳でございます。……常磐さま」

音羽の滝も氷柱になっていた。