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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

彼が政治をやり出してから、支那宋代の文化が活溌に流入して来た。物資ばかりでなく、宋代の歴史経済の書物などもとりよせて、朝廷へ献上したりしている。瀬戸内海の航路を開いたり、兵庫港を築修して、和船宋船を賑わしたのも入道の力であった。

その兵庫港の築港をつくる時も、人柱を沈めなければ、海底の礎石がすわらないという工人たちの愚を笑って、石に経文を書かせて沈め、経ヶ島を築きあげて、

(どうだ)

と、迷信を打破して時人へ示したのも入道であった。

その筆法で、寺社の領土を没取して、僧兵の勢力を削ろうとするのも、入道の方針だった。

明らかに、それらの事は、国家に貢献する所のある政策だったが、よい事は、世人からいわれなかった。すべて彼の私生活と、権力のあらわれに対する反感で消されてしまった。損といえば損な人、不徳といえば不徳な人、いずれにしても入道の心事には、寂しいものが一抹常に横たわっていた事は争えなかった。

四

ひとしお寂しさの身に沁みる秋ではあるし、重盛を亡くした後の気落ちも来ているせいか、入道はいつになく、独りあれやこれと思いめぐらして、

「ああ――」

彼らしくもない嘆息をついた。