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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
――思いやらるる事ではある」
夜明けの大気を吸ったばかりで、まだどこか、戦気は立って来ない。侍たちのうちでは、こんな話が交わされていた。
「いや、大庭どのばかりか、そういう苦衷は、渋谷庄司重国どの辺りでも、同じ思いを抱いておられよう。敵方にいる佐々木兄弟四人の親、佐々木源三秀義と、重国どのとは、年来の親密、今では、親戚のあいだがら。しかも身は平家の重恩をうけているので、雄々しくも、私情をすてて、老躯をここへ運んで来ておられる」
「それが、当りまえであるに、敵の北条時政のごときは、祖先も平家から出て、代々平家のご恩にあずかりながら、年がいもなく、血気な若者の火いたずらに乗せられたか、それとも、彼が唆したか知らぬが、叛軍の指揮に当っているそうだが、気の知れない馬鹿者ではある」
「七日ばかり存分に暴れまわったから、もう彼等の鬱憤もはれたろう。きょう明日のうちには、この辺の谷間を墓場として、時政も頼朝も、またそれに躍らせられた不運な輩も、みな土中の白骨と、急いで変ってゆくことだろう。――何しても、人騒がせな事をやり出したものよ」
平家方では、勝敗は問題としていなかった。