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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

そして、六月末の挙兵が聞えてくると、

(ついに、起ったな……)

と、誰もそれに一応の同情を抱いたし、また、

(さすがは、やはり名門の子である。二十年の臥薪嘗胆、よくぞした)

と、彼の系図を革めて思い起し、それに崇拝の念さえ加えて、先頃から寄るとさわると、源氏方、平家方と称び分けた通り言葉で、うわさに持ちきっている有様だった。

その頼朝が、一敗地にまみれて、行方も知れない――と伝わって来た時、はっきり世間に現れた事は、この地方でも、若い人の層に、一様に濃い落胆が見えたことだった。

間もなく、

(佐殿は、安房か下総の辺へ、落ちのびて来られたという噂だぞ)

と知れ渡ると、俄然――といってもよい程、この房総一帯も、人間の顔いろ、人々の眼、話題、生活の仕様、殊に若い層のうごきが活溌に変って来た。

が、ここにもある古い勢力や秩序が、それとは反対な衝動から、

「落武者を入れるな」

と、各※(二の字点、1-2-22)の地盤を、守り固めて、極力、この颱風から遁れようと努めた。

寒川、五反保を濠として、その郭内に、侍屋敷の門をならべ、丘の猪鼻台に、一族の館を持っている千葉介常胤なども、当然、そうであった。