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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
その時、父の常胤は会わなかったが、胤頼は兄の胤正と同席で、彼を迎えたことがある。
「無礼すな!」
胤頼は、武士たちを叱って、
「よく何事もなかったものだ。このお方が本気になって抵抗ったら、其方どもが十人、二十人、かかっても、濠の水を呑んだろうに。――さてさて無事であったは、寔にご堪忍のお情け、辱い」
と駒を降りて、慇懃に挨拶をし直している様子に、橋守の武士たちは、この旅商人、一体何者かしらと、首を傾げ合っていた。
「いやいや落度はそれがしにある。取次を願っても、われらの今の境遇では、尋常にお通しあるまいと、あなた様か、胤正様のお出ましを待とうと、うろついていたため、疑われたのでござる」
「何にしても、ここでは、お話しもならぬ。館まで、お越し下さい」
胤頼は、駒を、侍の手にあずけて、旅商人姿の盛長と、肩をならべて歩み出した。
落着いてから訊くべき事と思いながら、その間も待ちどおしげに、胤頼は、歩きながら言葉短に、もう訊きほじっていた。
「ご無事か。佐殿には」
「は。天佑といいましょうか、おつつがもなく」
「して、今は何処?」
盛長は、後ろを見た。供の侍たちは、ずっと後ろから、胤頼の駒を曳いて来るので、