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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

それ程、千葉一族が味方に加わるという事も、ここへ来てみるまでは、まだ半信半疑だったのである。

将士でさえ、そうであった程だから、顔に出さない頼朝の歓びも、内心はどれほどだったか分るまい。――その歓びの溢れがつい云わせたのであろう、頼朝は、その夜、猪鼻台の館の饗宴に臨んだ時、常胤の手を取って、

「何だか、自分までも、あなたの子息の一人かのような心地がする。以後、貴殿を以て、父とも思うぞ」

と、云った。

そう云われた常胤は、頼朝の世辞とは思いながらも、

「よい息子がまた殖えた。日本一の息子どのではあるまいか」

と、心からほくほくしたが、頼朝の側にいた北条時政は、何か、嫌な顔をしていた。――同じような巧い言葉を、かつて、頼朝の口から、自分もうけた事があるので、それが思いだされたのである。

城内に、一夜泊って、十八日の朝、頼朝はここから出発した。

すると、館の出口に、紺村濃の直垂に、小具足を附けて、跪いている若者がある。常胤の息子でもなし、孫とも見えないので、

「あれにおる者は?」

と、頼朝が訊ねると、常胤は、待っていたように、その若者へ、

「近う。――頼隆殿、近う」