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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
そうして、随身した兵は、すぐ労役を命じられた。半日の間も遊ばせてはおかないのである。附近の民家を壊したり、小舟を集めて大河を貫く舟橋の架設に向けられたり、軍器の手入れ、兵糧の徴発、あらゆる方面に働いていた。
「…………」
広常は、まだ坐っていた。
つい先頃までの彼は、頼朝の召をうけても、去就に迷っていたのである。が、今暁ここへ来る時には、もう肚は極まっていた。
――味方と見せて、二万の兵をもって包囲し、一挙に討ってしまう――であった。
彼の考えは、三度変った。
――会う要はない追い返せっ。
と、頼朝から案に相違した叱言を聞いたせつなにまた変ったのである。――これは。この人物は。とさすがに長い生涯を通って来た老将だけに、初めて頼朝の人間を見直したものであった。
六
「誰じゃ。そこにおる爺は」
何かの指図に、陣の外へ歩み出て来た頼朝は、まだ、大地にじっと坐っている上総介広常を見かけて、
「あれは、何者か」
と、もう今朝の事など、忘れているような――その実、忘れていないらしくも見える顔をして――傍らの土肥次郎実平に訊ねた。
「上総介どのにござります」
答えると、