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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

何ぞ、その頃の遺物らしき土台石でも残っていないか」

「あれに、古い堂宇が見えまするが」

「さてこそ。父の歿後、岡崎義実が建てた一梵宇とはこれであろう」

頼朝は、つかつか歩み寄って前に立った。――無言のままだった。掌を合せるとすぐ退がって来た。

鎌倉の第一夜を、彼は民家に泊って明かした。翌日は彼自身、鎌倉中の地を視歩いて、大倉郷の地を選定した。決めるとすぐその日から崖を切り崩し、小川を埋め、たちまちどこからか巨石や用材を運ばせて、建設の礎をすえていた。

二

頼朝の口から出る命令には、すべてに亙って、

――息をもつかせじ。

とする気合が見えた。

安房を立ち、隅田川を発し、鎌倉へ着いてからでも、何事にまれ、明日を待って、という事はなかった。

前進。前進。前進! 踏み揃っている打破と建設の足なみを、一歩も弛ませまいとするもののようであった。

もちろん彼自身の生活が、その足なみの先頭にある事はいうまでもない。彼自身が、閑を偸んでいたり、ほッと息をついていたりしていながら、全体の足ぶみだけがある理由はなかった。――鎌倉の府ができ上がった後は知らず、今の彼は、創業の人だった。