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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「総大将のおふたりを見たのかよ」

「なんの、どれが知盛様やら、重衡様やら、分るものではない。四、五百ほどの人数が、ごっちゃになって、馬も徒士も、押しあい、揉みあい、われ勝ちにな――」

「三位中将資盛さまも、宇治のほうが支えきれず、午ごろであったか、夥しゅう逃げ帰って来たままじゃ」

「もう防げまい。叡山の衆も、木曾殿と合体して、谷々から、太刀弓矢をとり出し、はや加茂川の上に、喊の声をあげているとやら」

「……どうなるのじゃ」

床下からも、小屋の中の闇からも、悲しげなうめきが洩れた。

すると、裏店の井のわきに聳えている大きな欅の木の洞から、

「どうもなりはしない! どうなろうが、京都は京都じゃ。案じなさるなよ!」

と、どなった男がある。

驚いて、首をのばした人々が、木の洞を指さして、一層、恐怖にかられていると、やがて男は、そこから這い出して来て、空地のまん中へ立った。

「誰じゃろ。この近所で、見たこともない人だが?」

怪しみながら、その男を見まもっていると、男は、

「平家が追われれば木曾殿が京都に入る。木曾殿がよい政事をなさらなければ、また、鎌倉殿が来て代ろう。――その鎌倉殿もいけなければなお、次の軍勢が来て治めよう。