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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
をも作ってしまった。
――といって頼朝という一臣民が、他の国民にくらべて、決して、朝廷に奉ずる念がうすかったわけではない。彼もまた、朝廷への忠勤には、心を傾けた武将といえるひとりである。しかし人間は往々、余りに大きなものは、かえって、うかとし易いものである。
たとえば、人はよく空を仰ぐが、仰ぐたびに、太陽と自己の生命との関係を考えたりはしないように。
三
「はて。誰がよいか」
頼朝は、考えていた。
彼にとって今、彼自身がいうところの健全な野性が、にわかに必要となって来たのである。
京都、中国、鎌倉と、三分されている天下の勢力を、
「わが手に」
と、考える時、それが容易な事でないにつけ、誰をして、その難事業に当らせるか――見まわすところ多くの武将のうちにも、そう人はなかった。
後白河法皇からひそかなお招きもあったが、彼は、義仲のいる京都へ上る気はなかった。
彼の身はもう鎌倉からたやすく動けないものになっている。
鎌倉を空けて、彼自身が、義仲と平家の二勢力を、一掃しにゆくなどという事は、いかに望んでみても、夢にすぎない。
「……人はないもの」
と、頼朝はつくづく思った。