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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「御曹子、近日のうちに、きっと、あなたのお身の上にも、大きな使命が下りますぞ。……こう申せば、もうお分りでしょう」

「……では、鎌倉へのご用は」

「私事の用向きではありません。……院のお使いとして、それも極く密かに」

と、いよいよ声を落して、

「人になおもらしあるな。実は鎌倉殿へ、御院宣をお伝え申すために下る途中なのです。義仲の暴状は、もはや一日も捨ておかれないまでになっている」

「そうですか」

静かな面でうなずいた。――が義経のそれには、ほの明るい血がさし上っていた。

「貢ぎのお使いにお上りですか」

「そうです」

「ご入洛は待たれたがよい。危険です。――それに、それがしが鎌倉殿へ着く日もまもない」

「…………」

義経の眼は、何か、迷っているように見られた。

「いっそ、それがしと共に、一応鎌倉へお引返しあっては如何ですな」

「そうはなりませぬ」

「――さもなくば、早々、海道の源氏に、用意を命じ、お手勢とあわせて、京へ迫るお支度をひそかに進めておかれるもよい」

「いえ、何事も、兄のいいつけが下らぬうちは出来ません。……やはり貢ぎの荷駄を曳いて、京都へ参るといたしましょう」