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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

蒲冠者にすら与えずにあるのだ」

「さればこそ、たって景季が望みでござる」

「いや、頼朝みずから出陣の日までは、厩におく」

「可惜!」

景季は舌打ちして、

「合戦中は、夜ごと、名馬が厩で悲しみましょう。この千載一遇の秋につながれて置かれては」

「云うわ、憎態を」

頼朝は、愉快になった。彼の押太さに負けてやりたい気がした。

「つかわそう」

「えっ、賜わりますか」

「――が、生※(「口+妾」、第4水準2-4-1)ではないぞ。生※(「口+妾」、第4水準2-4-1)にまさるとも劣らぬ磨墨のほうを遣わそう」

「ありがとう存じます」

景季は、満足した。

誇らしかった。

「――宇治川の先陣は、おれのもの」

もう十分な自信があった。

聞くならく、こんどの合戦に、鎌倉殿のお厩から曳き出された逸物には、義経の料にとて薄墨――乗更駒に青海波。

範頼には一霞と月輪。

御家人たちのうちでは、熊谷二郎直実の権太栗毛は自慢の駿足であるから、こんども彼を曳いたであろう。畠山重忠にも、秩父鹿毛とか、大黒人とか、妻高山鹿毛とか、評判な名馬があるので、さだめし選りに選って、競い立って行ったにちがいない。

「だが、磨墨には、どれも及ぶべくもない」