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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

それが、日の経つにつれて、狂暴になった。義仲の性格にも、もちろん悪い血があればこそだが、ひとつにはこの京都に平家が、残して行った文化の残滓やら人心の悪気流やら政治の組織やらも、義仲の神経をひどく翻弄したり疲らせもしたのである。

たとえば、院の女房たちにしても、彼が衣冠した姿を見れば、おかしくもないのに笑う。笑いこけて隠れこむ。

公卿堂上人の冷たい目も、彼の前には立たないで、薄暗い物陰からのみ隙見している。

「いかにして笑われまいか」

だけでも、木曾殿の神経は疲れたにちがいない。

それを通り越したので、

「笑わば笑え」

彼は、憚らなくなった。木曾山中の飛鳥走獣がそのまま院中をも洛中をも横行した。

為に、都の文化も秩序も乱脈に陥入ったが、実は、義仲もうろたえに囲まれていた。彼は渇望していた都の文化や中央の府が、こんな厄介なところとは予期していなかったのである。

「こんな厄介ものを、平家も恋々とし、頼朝も欲しがりぬいておる。ばかなやつら」

もう抛り出してしまいたい。ほんとに彼はそう思っている。彼には割あいに偽りはない。

だが、頼朝の権力を入れる事は意地でもできない。