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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

けれどそれは、血縁というものの特殊な感情を解さない人のことばであるという者もある。

血は濃いものであるが故に、その血の近い同族が争うことになると、他人と他人の憎悪よりは、烈しいのが常である。傍からは窺い知れない血液と血液とが搏撃する。利害にかかわらず共倒れも怖れないところまで行く。

だから、同族中で、その主体たらんとする一人があれば、自分の腕と知りながらも切って取捨てる。自分の指と知りながらも断って、患を除こうとする。――古来、主体の人が、冷血といわれるのは、そういう思いきった事をも敢然となしうる強力な精神が、その覇業のうえでは認められても、民衆の道徳や人情には、受けいれられないためであろう。

そんな公卿たちの評も聞かれるほど、院の御所も平穏であった。洛中の庶民も、戦争に馴れて来たのか、こんどは平常とそう変りなく、商いもしていた。

けれど、眼を転じて。

瀬田口の前線を見れば、そこの水路も道もまったく遮断されて、湖をよぎる鳥影もなかった。

さらに、宇治川方面の防禦のきびしさはいうまでもない。きのうの朝も今日の朝も、雲は低く、ひょうひょうと寒風をふき落して、橋板の引かれた橋杭に、白いものさえ積って、陽が高くなると消えた。