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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

と、陰で怒ったというくらいである。

実際兵力の不足は範頼も義経も苦心していたところだった。

木曾方も、寡兵であるが、守備よりも攻撃する側のほうが、それに数倍の兵力を要することは戦の原則である。

それなのに、義経はなぜ、敵方の士気をよろこばせるような味方の弱点を、わざと云いふらしたのだろうか。

彼の答えは簡明であった。

「――義仲を、都のうちに、繋ぎ止めておくための流言にすぎぬ。兵法は嘘のみと思うは誤り、正直もまた兵法であるのだ」

二

水中にはいった半裸体の兵ばらの使命は、生死を超越しなければできない作業だった。

ひろい奔流の諸所には、うかとすれば、すぐ生命を捲きこんでしまう恐ろしい死の渦が巻いている。

その水はまた氷の如く冷たくて手足の知覚もたちまち失われてしまう。

彼等は、その寒さや危険を冒しながら、身を沈めては、河底に張りめぐらしてある無数の縄を断ち切った。乱杭を抜いて押し流したり、割竹の堰を破って、柴の束や材木の障碍などを取り除いたり、浮きつ沈みつ、さながら神のような姿で働いていた。

「あれよ、下流のほうへ、また一名流されたぞ。誰ぞ、救ってやれ」