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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「高綱におくれてなろうか」
と、思っているし、高綱も、
「彼に名はなさしめぬ」
と、この宇治川へかかる前から固く自分に誓っているのである。
わざと、部隊を離れて、ほかに渡る戦友の影もない下流の水路を選んだのも、約束したように、ふたりの考えが暗合した。
馬の力が弱ければ、勢いこの激流では、河のまん中まで進むうちにも、かなり下流へ流される。それ故に、障碍物をとり除いた水路よりもだいぶ上流へ移動して大勢一かたまりに渡河にかかったものであるが、佐々木高綱と梶原景季のふたりは、十分、馬の力に自信があった。
――で、むしろ味方同士の邪げがない下流を選んで、自分一騎だけはと、やにわに丘の陰から駈け出したのであったが、何ぞ計らん、そう考えた者は、自分だけではなかった。
「景季もやりおる」
「高綱もぬからぬ男」
無言のうちに、ふたりは負れを誡めた。もっとその感想を露骨にいうならば、お互いに自分の相手を、さすがと尊敬し、小癪なと憎み、そして油断ならじと怖れ合った。
悍気の立った生も磨墨も、水面から立つ狂風に吹かれると、たてがみを強く振って、いななきぬいた。
生※(「口+妾」