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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

「――まだ鞍馬にあった幼年の頃、夜ごと鞍馬谷へわしを誘い出して、わしの幼い魂へ、兵学を教えこんでくれた父義朝の遺臣たちがよく云っていた」

燭の白い灯を見つめながら彼は純白な幼な心に返ってそれを憶い出していた。

(――悪い世をよい世の中に革める。それが源氏の再興でなければなりません。けれど、新しい世をうち建てるには、必然、旧い勢力と、遮二無二戦って、それを打破してゆく人が出なければできない。それは時の潮の真っ先に立つ人だ。その人に降った天の使命だ。打破しては創て、壊しては建て、その人は右顧左眄してはならない。一点の私もなければ民衆はついてゆく。そうしてただ、一名の者がほんとに国の人柱となる気ですすめば、それについてゆく民衆のあとに、自ら新しい世の相も組織もできてゆく。……が、これは賢い人にはできない。なぜならば、いずれにせよ、旧勢力からふるい落される無数の人々から恨みをかう。……故に、英雄の末路はおよそ悲運ときまったものです。けれどもそういう人も出なければ真の建設はできない……。あなたは、生涯の無事をお祈りなさるよりも、甘んじて、人のなし得ない天の使命をうける人とおなりなさい)