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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「またか」
と、云わぬばかり、傍らの梶原景時の顔を見た。
義経はもう通って来た。
範頼に対しても、義経は異母弟であるし、こんどの軍の編制でも範頼は総大将であり、彼は一方の指揮官でしかない。
当然、義経は、何をいうにも、そういう礼と格から云わなければならなかった。
「平家方の軍勢が、入洛の姿勢をもって、こよいにも、動きかけているという情報は、もうお聞き及びとぞんじますが」
義経が云いかけると、
「風説にすぎない」
と、範頼はすぐ打消した。
「うわさは、虚報だそうです。しかし、それで安心はなりません」
「備えはできている」
「守備は不利です。ましてこの洛中にあって、この小勢では」
「九郎殿にはまた、ここを出て、攻勢に向えと、短気をすすめに見えられたか」
「これで三度、くどいとお思いになりましょうが」
と義経は、自分の主張を、耳の熱するまで説き出した。
けれど範頼は、
「院のお沙汰のないうちは」
と、彼と一致する容子もなかった。そのうちに鎌倉殿のご返事もあろうなどと、依然として、悠長なものだった。
その悠長にかまえている事のいかに危険であるかを、義経は泣いて説破した。