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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

すると重忠は、さもあろうと云わぬばかりに、

「われわれが、進んであの君の旗下に従いてきたのは、目ちがいでなかったな」

と、おたがいに本望らしくほほ笑みを見交わした。

重忠も実平も、初めは範頼の指揮をうけていた将たちであった。ふたり共、感じることがあって、途中から義経の陣へ転じたのである。常に、義経のほうは、難攻の敵に向うので、志望者の少ないのを幸いに、進んで義経について来た者どもであった。

物見はたえず放っているが、その日も、黄昏近くに、かなり深入りして来たのが、帰って来て報告した。

「敵は、新三位中将資盛を大将として、およそ二千五、六百の兵を擁し、この三草山の向う側――西の麓にものものしく塁を築いています。山路や沢に柵をゆい廻し、守兵の配備など、きのうと変りは見えません」

夜に入ると、星影の下、義経たち七百の兵馬は、黒々と前面の山を越えて行った。

断崖

一

平家方でも怠らず物見を出していた。物見の報告を聞くたびに、

「さもあろう」

と、資盛以下、三草山の東麓にある将士は、義経の動かぬ様子を肯定していた。

「義経ごとき黄口児が、わずかな手勢をもって、この搦手へかかって来たとて、何ができよう」