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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
直家が云うと、大勢のなかに引きすえられたその若者は、眼が眩みでもするように、ぺたと、顔を地につけたまま、身を縮めていた。
「……ホ。左様か」
と、義経は、やさしく、
「名は、何という」
まず訊ねた。
若者はかぶりを振った。名はないのかと訊くと、頭をたてに振ってうなずく。
まわりの人々が笑うので、若者はよけいに固くなるばかりだった。――年はと訊けば、十七と答える。
十七にもなって、名のない者はあるまい。親たちは何と呼ぶかと訊ねると、せがれとしか呼んだことはないという。
「では、世間の人は」
と、訊くと、自分の小屋のある辺が、鷲尾という地名なので、鷲尾とよばれていると、ようやく心も落着いたか、すらすらと答え出した。
「そうか」
最前からの彼の容子に、義経は始終ほほ笑まれた。愛らしくさえ思われた。武士になるかときけば率直に、なりたいと云う。そして初めて、強烈な眸をして義経のすがたを仰ぎ、幾たびも頭を下げた。
「姓は、鷲尾でよかろう。時は春、わが一字を添えて、経春と名のれ鷲尾の経春と」
義経のことばに、若者は、身のおき場も知らぬばかりな体だった。人々から、
「鵯越えのうえに出る道を知っておるか」