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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

この試みからみると、危険率はちょうど相なかばしている。

「見たか、各※(二の字点、1-2-22)」

義経は早、断崖にのぞんで、駒を立てならべた人々をかえりみながら云った。

「馬と人一体に、心して駈け落せば、七十の兵のうち、三十五騎は生きのころうぞ。――まず義経が先駈けして見せ申さん。義経が馬の立てようを見習い候え」

彼は、云い終ると、すぐ自身の馬の後脚を折敷かせ、手綱を掻くり、激流へ筏を下ろしてゆくように、ざっと絶壁を落して行った。

「おうっ」

「――おうっッ」

「それっ」

おくれじと、劣らじと、鎌倉武士のたましいは、白熱して搏ち合った。そこの絶壁いちめんを砂けむりにして、山くずれとばかり、下の磯を埋めた。すぐ躍り立つもあり、そのまま起たない馬、起たない犠牲者もすでにあった。

独愁

一

彼のやしきは新たに六条室町にさだめられた。義経が一部の手勢を引いて、そこへ凱旋したのは九日だった。

市中は、まるで祭のような騒ぎだった。その中で、平家のために、

「変れば変るもの」

と、泣いている女もあるし、

「いよいよ時代は革まった」

と、興奮している若者もあり、念仏をとなえて、捕虜のすがたや首桶に眼をそむける尼もある。