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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「後にせい」
とか、
「待たせておけ」
とか、
「追い払え」
とかいう吩咐けである。
公卿の訪問客が多いのであった。ふしぎな現象である。朝廷へは常に出仕しているので、そこで会えばいいに、私邸を訪ねて来るのが多いのだ。
殊に、先頃の乱に、源氏が一敗地に塗れてから、清盛の鼻息に媚びてくるのがうるさい程だった。
「やれやれ」
清盛は、平服に更えると、そう云って居室に寛いだ。彼の日課も多忙だった。倦まない質だが、朝廷から退がって来た時には、時折、疲れた顔いろを見せる。人にいえない、複雑なものを、いつも朝に上ると抱いて帰るらしかった。
上皇の院政を支持する公卿と、天皇を擁し奉る公卿との対立が、その煩いの禍根だった。清盛は、その一掃にかかっているが、根を抜こうとすれば、花を散らす。花を散らすまいとすれば、根は抜けない。
「久しいこと、お帰りをお待ち遊ばしていらっしゃいます。これへご案内申しあげましょうか」
近侍は、頃を見て、清盛へそう訊ねた。彼の義母にあたる池の禅尼が、何か折入って会いたいとかで、別室に待っているというのであった。
三
「なに。尼公が」
清盛は、小首をかしげた。